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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)335号 判決 1957年4月11日

東京都文京区久堅町一〇八番地

上告人

共同印刷株式会社

右代表者代表取締役

大橋芳雄

右訴訟代理人弁護士

宮崎直二

同都千代田区丸の内二丁目一八番地

被上告人

第一通商株式会社

右代表者代表取締役

今井富之助

右当事者間の約束手形金請求事件について、東京高等裁判所が昭和三〇年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨第一点について。

原審判決は、所論抗弁を重大なる過失によつて、時機に後れた防禦方法であるから、その内容について判断するまでもないとして、これを排斥したものであつて、当審も本件記録に照し右の措置を正当と認める。さすれば所論の主張は原判決の判断していない事項に帰し上告適法の理由と為すを得ない。

第二点について。

しかしながら、原判決は上告人の本件手形上の債務を、保証の趣旨であるとは認定していないのであるから論旨は、前提を欠き採用できないばかりでなく、仮に所論のように上告人の本件債務が保証であり、その主債務者である訴外会社に対し、会社更生法による更生手続開始決定が為され、その手続が進行中であるとしても、上告人の保証の責任には消長あるべきものではなく、被上告人が本件手形上の権利を、即時行使するについて何ら妨げないものであるから原判決には、法律の適用を誤つた違法ありというを得ない。

第三点について。

しかしながら、所論相殺の意思表示も第一審口頭弁論において主張し得べかりし事項であるから、所論相殺債権に基づき相殺の意思表示をしなかつたことを、時機に後れたものとして排斥した原判決の措置は、正当であつて原判決には所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

昭和三〇年(オ)第三三五号

上告人 共同印刷株式会社

被上告人 第一通商株式会社

上告代理人宮崎直二の上告理由

第一点 本件は共同染工株式会社(以下単に共同染工と略称する)が被上告人に対して負担する既存債務を上告人が保証し、その保証債務履行の為めに為した手形行為であることは上告人が数次に亘り主張するところであります。

而して会社はその目的の範囲内に於てのみ行為能力を有し、目的の範囲外の行為は無効であることは、茲に喋々する迄もありません。会社が同業者以外の他の者の債務を保証する行為は会社の目的の範囲外の行為でありまして無効であります。手形行為は手形行為自体としては会社の目的の範疇に属する行為でありますから、手形が善意の第三者の手に渡つたときは手形原因の無効を以て第三者に対抗することはできませんけれ共、直接の当事者に対して手形原因の無効を主張し得ることは、手形法第十七条の規定に依つて明かであります。本件は前述の如く無効なる保証債務履行の為めになしたる手形行為でありまして上告人は直接の当事者たる被上告人に対しては手形上の義務を負はない次第であります。然るに原判決が上告人に手形上の義務ありとなしたるは法律の適用を誤りたる違法ありと云はなければなりません。

第二点 本件手形は第一点に於て述べました如く共同染工が被上告人に対して負担する債務を上告人が保証したものであつて従たる債務であります。然るに共同染工は昭和二十九年一月九日会社更生法に依る更生手続開始決定あり目下更生手続進行中でありまして共同染工に対する債権は総て更生手続に依つてのみ支払を受くるものであつて、単独に自由なる債権の行使はできません。主たる債務が以上の如く更生手続中なる為め単独の行使ができないのでありますから従たる本件債務はその権利の行使の時期及態様は総て主たる債務に従はなければなりません。即ちその支払の時期及方法等総て主たる債務の時期方法を超ゆることはできません。これは保証債務が主たる債務に従属する性質上当然の結果であります。然るに原判決が主たる債務を考慮することなく即時支払の判決をなしたるは法律の適用を誤りたる違法ありと云はなければなりません。

第三点 上告人は第二審に於て被上告人の不法差押に依る損害賠償請求権債権と本件債務との相殺を主張し、上告人の債権を立証する為め先づ被上告人の為したる仮差押の記録の取寄せを申請しましたが時期に遅れたる抗弁として却下されました。然れ共相殺は一つの権利であつて、相殺の意思表示をする迄は、相殺の効力を生じません。而して上告人は第一審に於ては未だ相殺の意思表示をして居らず、第二審に於て初めて相殺の意思表示を為した次第であつて、第二審に於て初めて新しき法律事実を生じたから、その法律事実の審理を求めた次第であります。然るにこれを以て時期に遅れたる抗弁として審理をしないのは、法律に違背して抗弁を却下し及審理不尽の違法があるものと云はなければなりません。

以上

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